不動産に付随する問題として、その不動産の属する区域が災害に遭いやすい場所かどうか、そしてその災害はどんなものが考えられるのかが挙げられます。
近年はスマートフォンによって一般人が手軽に災害の様子を動画で撮影することができるようになり、例えば東日本大震災では巨大な津波の映像がネット上で流れるなど、その様子を簡単に見ることができるようになり人々の災害に対する意識も高まっています。
不動産の取引を行う場合においては、建物の状態などに目がいきがちですが、災害リスクがどれくらいあるのかを売り主、買い主双方がよく知っておく必要があります。
災害意識が高まっていることに関連して、南海トラフ大地震を警戒し、海沿いから少し内陸に入った場所に引っ越す人が多くなっている地域もあります。
これらの現象を見ると、不動産売買の決め手として災害リスクがどれほどあるかということも重要になってきているといえるでしょう。
災害区域については、役所の防災課などで知ることができ、主にその区域の種類は以下のようになります。
- 土砂災害警戒区域
- 津波災害警戒区域
- 造成宅地防災区域
それではこれらの区域はどのようなものなのかを見ていきましょう。
上記の区域に指定されている土地については、勧告や命令を受けたり、建築物の制限を受けたりする可能性があるため、よく把握したうえで不動産の購入を検討したほうが良いでしょう
土砂災害警戒区域
土砂災害警戒区域はその名の通り、土砂災害の危険性のある区域であり、都道府県知事が定めています。
その土地の地形や地質、土地利用状況を調査したうえで、土砂災害防止法という法律によって指定することになります。
また、土砂災害警戒区域にはイエローゾーンとレッドゾーンというものでさらに区分けされています。
イエローゾーン
イエローゾーンは、「住民等の生命または身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域」と定義されており、警戒避難体制の整備を行うことを市町村に義務付けています。
具体的には、
●急傾斜地の崩壊
- 傾斜度が30度以上で高さが5メートル以上の区域
- 急傾斜地の上端から水平距離が10メートル以内の区域
- 急傾斜地の下端から急傾斜地高さの2倍(50メートルを超える場合は50メートル)以内の区域
●土石流
- 土石流の発生の恐れのある渓流において、扇頂部から下流で勾配が2度以上の区域
●地すべり
- ・地すべり区域(地すべりしている区域または地すべりする恐れのある区域)
- ・地すべり区域下端から、地すべり地塊の長さに相当する距離(250メートルを超える場合は250メートル)の範囲の区域
となっています。
レッドゾーン
対してレッドゾーンは「住民等の生命または身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域」と定義されています。
イエローゾーンと比べて、レッドゾーンのほうがさらに危険である区域であるため、警戒退避体制の整備に加えて、一定の開発行為に対して審査が必要な許可制であったり、建築物の構造規制、都道府県知事によって建築物の移転の勧告が行われたりと、厳しく施策されています。
もし売買対象の物件であれば、建築物の構造規制があれば具体的にどのような規制となっているのかを買い主側は知っておくべきでしょう。
造成宅地防災区域
造成宅地防災区域とは、都道府県知事が宅地造成等規正法によって指定した区域で、宅地造成工事規制区域に指定されていない土地で、地震などが発生した場合にがけ崩れや土砂の流出など、災害が発生するおそれがある区域です。
また、上記の宅地造成工事規制区域とは、宅地造成に伴って災害が発生するリスクが大きい市街地、または市街地になろうとする土地の区域であり、宅地造成の工事規制を行う必要があるものです。
この宅地造成防災区域内の所有者になった場合、災害による被害が生じないように土が崩れるのを防ぐための擁壁の設置などの措置を務めなくてはなりません。
そのほかにも、都道府県知事は造成宅地防災区域内の物件所有者に対して、災害を防止するために必要な措置を行うように勧告、改善命令をすることができるほか、造成宅地への立ち入り検査を行うことができます。
この都道府県知事の命令としては、擁壁の設置のほかにも擁壁改造や盛土などの工事などがあります。
津波災害警戒区域
津波災害警戒区域は、河川の氾濫や、内水氾濫などの危険が予測され、警戒退避体制を整備するべき区域として都道府県知事が指定した区域となります。
近年では東日本大震災のほか、各地で豪雨による河川の氾濫による災害が大きな被害をもたらしており、特に人々の注目を集めている災害の一つです。
この津波災害警戒区域に指定されている区域では、津波が発生したときの避難場所や避難施設も定められています。
また、この津波災害警戒区域の中では、津波によって建築物が浸水や居住する住民の生命に著しい危害が想定されるとして開発行為の規制や建築、用途の変更を制限するべきであると指定された区域があり、それを津波災害特別警戒区域といいます。
ハザードマップについて
現在ではほぼすべての人がハザードマップの存在を知っており、ウェブサイト上でも調べたい地域のハザードマップを調べることができます。
このハザードマップは国土地理院が提供しているもので、地震や噴火、津波などの親善災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、災害によって被災すると予測される地域や、被害想定図、回避マップ、避難経路など、防災関係施設の位置などを表示した地図とされています。
ハザードマップはウェブサイトで調べることもできますが、役所にいくとペーパーで手に入れることもでき、いざ災害に遭った時はいちいちインターネットにアクセスして調べる余裕がないため、ぜひ自宅に防災グッズなどと一緒に保管しておくと良いでしょう。
また、不動産売買においては重要事項説明書の説明時に宅建業者がこれらの災害に関する情報を説明しなくてはなりません。
買い主側はぜひ聞き流さずに、そこがどれくらいの災害リスクがあるのかをしっかりと把握しておきましょう。
不動産売買で必ず知っておいたほうがいい災害に関する知識についてのまとめ
日本はもともと世界的にも地震が多く、山も多いため土砂災害や噴火、さらには水害など非常に多くの自然災害が発生するリスクが高く、東日本大震災以降は全国的にも災害に対する意識がたかまり、また、今後も南海トラフや首都直下型地震など、様々な災害が予測されています。
不動産はそうした自然災害の影響を非常に受けやすいため、不動産売買においては災害リスクに対する意識を高く持たなければなりません。
どのような災害が発生し、被害が想定されるかはハザードマップによって役所やインターネットで調べることができ、これをもとに重要事項説明書に盛り込まれます。
買い主側は、売買対象の物件がどのような災害リスクがあるかを納得したうえで契約意向しないと、いざ何かが起きたときにこんなはずではなかったということになってしまう可能性があります。
また、売り主側も売却する物件はどのような災害リスクがあるかを考慮したうえで、価格が妥当かどうかの判断をすべきです。
自然災害だけは人命が直接関わってくる問題ですから、適当に考えずにしっかり意識しておきましょう。
また、法律によって災害リスクのある土地については建築物の規制や土地利用の制限があるほか、擁壁の設置勧告や命令を受けるなど、手間や労力がかかる可能性があります。
そうなれば当然買い主側としては、希望していた使用目的を果たせない可能性が出てくるため、そこがどのような区域に指定されている土地なのか必ず知っておきましょう。
災害はいつ起きるか分かりませんが、いつかは必ず起きるものです。
不動産は金銭などの流動的な資産と比べて、一般的に長く保有するものですから、長い目で見て災害リスクを考えていきましょう。
買い主側はもしその物件に長く住む予定であれば、できればハザードマップなどで確認して安全な地域であるかどうかを確かめながら探すと良いでしょう。
この記事の著者
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建築・不動産が好きなファイナンシャル・プランナー。行政書士。元不動産営業マン。
神奈川県横浜市出身
40代既婚
人生の中で大きい取引になる不動産。
その不動産の取引に関する基礎的な知識、不安の解決、ノウハウなど、みなさまに分かりやすくお伝えします。
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